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Oliver Twist (TV) オリバー・ツイスト (2007年版) ①

イギリス映画 (2007)

20代半ばのチャールズ・ディケンズが、1837-39年にわたり月刊誌に連載する形で発表した『オリバー・ツイスト』の、今のところ最新の映画化作品。映画化回数の多い、「子供が主役の小説」としては、イギリスでは、ディケンズの『オリバー・ツイスト』『デビッド・コパフィールド』、ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』〔生まれはアメリカだが居住地はロンドン〕、アメリカでは、マーク・トウェインの『トム・ソーヤーの冒険』『ハックルベリー・フィンの冒険』、バーネット夫人の『小公子』などがあるが、充実度と回数から見て『オリバー・ツイスト』が断トツに多い。私が所有しているものだけでも、1922、1948、1968、1982、1985、1999、2005、2007年の8作がある〔1997年版(イライジャ・ウッドがドジャー役)もあるが、ビデオで字幕なし〕。1948年版は、名匠デヴィッド・リーンの監督作で、この長編原作を116分という短い時間に納めるという最初の見事な試みだった〔1922年のアメリカ版は、名匠フランク・ロイド監督で、オリバーは名子役のジャッキー・クーガンが演じているが、無声映画時代なので、パントマイム演技とカットタイトルの字幕を使い、僅か74分という短い上映時間なので、複雑極まる原作の映像化には失敗している。オリバーがフェイギンに会うまでに要する時間は、上映時間176分の2007年版とほぼ同じなのに、その語の展開は上映時間333分の1985年版に近い範囲まで広げている。結局、後半に行けば行くほど、「紙芝居」のようになり、映画の体をなしていない〕。1968年のミュージカル『オリバー!』は、名匠キャロル・リード監督で、オリバーはマーク・レスター、アカデミー作品賞・監督賞などを受賞している。最も簡潔でスリリングな脚本だ(オリバーの危機が3回ある/原作では2回)。1985年版は、BBC製作の第1号で、原作にほぼ忠実に作られているが、その分、333分と長尺だ。1999年版は、エクソンモービル名作劇場の30周年記念として製作されたもので、386分と最長で、その3部構成の第1部を、「バッドマン・ビギンズ」ならぬ「オリバー・ツイスト・ビギンズ」にしている。原作ではほとんど書かれていない「オリバーの誕生に至る経緯」を、映画1本分の時間で創作してしまった。そして、その第1部に連動して、その後の展開も原作とは微妙に変え、全体で巧く筋が通るように工夫されている〔原作には謎や飛躍が多すぎる〕。そして、この2007年版。BBCが2度目の製作に挑戦しただけあり、意気込みが違う。DVDのメイキングで、監督のコーキー・ギェドロイツは、「オリバー・ツイストの、どの映画化でも、主人公はイートン校のしゃべり方。性格は弱く受動的で、偶然の展開に、ただ翻弄されるだけ」と述べ、脚本のサラ・フェルプスは、「めそめそした オリバーにはうんざり。肝っ玉もガッツもある少年で、最後には、探していたものが見つかり、誕生の秘密が明らかに」と述べる。その脚本に対し、フェイギン役のティモシー・スポール(『ハリー・ポッター』のピーター・ペティグリュー役)は、「サラは、見事な脚色を書いた。原作の自由で的確な再構築だ。彼女は、登場人物の本質を把握している」と褒める。このファイギンが映画の中で話す言葉は、「英国系ユダヤ人に多い イディッシュ語を話す。放浪者なので、ロンドン訛があり優雅にもしゃべれる。少しドイツ語風で僅かにイタリア語。それらが渾然としている」いうことだが、そんな風にはとても訳せなかった。ナンシーは始めての黒人。この点について脚本家は、「ナンシーは、映画やテレビで幾度となく描かれてきた。だから、新鮮な切り口が… 黒人か混血のナンシーが、いいと… 全員が白人の時代劇なんて、うんざり… 海外から、たくさん船が来てるから。ロンドンには、いろんな人が… 特に、船のドックの周りには、実際、異文化の香りが あったとされてる」と話す。製作責任者サラ・ブラウンは、「今度の、オリバー・ツイストは個性的な 脚本家に任そうと… 本筋に踏み込んで、新鮮で違った味わいの出せるような。サラ・フェルプスには、ずっと注目してた。彼女なら、何か斬新なことができると感じたの」と語る。ここで、もう一度、サラ・フェルプスが登場する。「オリバー・ツイストの映像化は大変なの。何度となく作られて、成功作も多いから。でも、考えようによっては、愛する作品がどうなるのか興味深々の視聴者との勝負。オリバー・ツイストを、新しい視点で演出する。それも、品位を落とさずに。大きな挑戦だった」。関係者3人がすべて女性というのも面白い(他の7作は、すべて男性)。この2年前に作られたロマン・ポランスキーの2005年版が、1968年のミュージカル『オリバー!』の焼き直しで、何の新鮮味もない作品だったことを思うと、この挑戦は見事としか言いようがない。

原作の要点を簡単にまとめると、
 「エドウィン・リーフォードとアグネス・フレミングの子がオリバー。エドウィン・リーフォードには正妻があり、その子がエドワード・リーフォード。自称モンクス。オリバーの義兄にあたり、オリバーに財産を取られたくないので画策する。アグネスには妹ローズがいて、メイリー夫人に引き取られている。ブラウンロウ氏は、リーフォード家、メイリー家とは無関係」
となる。それを2007年版では、
 「ウィリアム・ブラウンロウとアグネス・リーフォードの子がオリバー。ウィリアム・ブラウンロウ(ブラウンロウ氏の息子)には正妻があり、その子がエドワード・ブラウンロウ(同・孫)。自称モンクス。オリバーの義兄にあたり、オリバーに財産を取られたくないので画策する。アグネスには妹ローズがいて、ブラウンロウ氏に引き取られている」
と変えた。これは非常に革新的な変化だ。というのは、オリバーが最初に保護されるロンドンの紳士がブラウンロウ氏だからで、ブラウンロウ邸にはオリバーの姪にあたるローズも、義兄にあたるモンクスもいる。これは、原作の一人住まいのブラウンロウ氏とは根本的に設定が異なる。原作では、オリバーは郊外にあるメイリー夫人の館に強盗に入らされ、そこでローズと会う。映画では、オリバーは強盗に入らされるが、撃たれてそのままロンドンに戻る。だから、原作には2家族が登場して複雑混迷を極めるが、映画では1家族になり、全体がシンプルになっている。これは、これまでの映画化では見られなかったアイディアだ。1968年のキャロル・ロード版のミュージカルや、それをほぼ踏襲した2005年のポランスキー版は、時間の関係でさらにシンプルで、モンクスもローズも登場しない。1948年のデヴィッド・リーン版ではモンクスが曖昧な形で登場し、ローズは登場しない。一方。TVminiシリーズの1985年のBBC版は5時間半で原作通り。アグネスの死までを新たに加えた1999年版は、原作の設定に近いが、メイリー夫人は登場させず、ブラウンロウ氏はエドウィン・リーフォードの友だちで、ローズを引き取る。そういう意味では、2007年版に似ているようだが、モンクスはエドウィン・リーフォードの子供で、ブラウンロウ氏とは無関係。あと、結末が非常にあっさりとしている。これまで、どの作品でも、最後のクライマックスでは、オリバーがその場にいても(1948、1968、2005)、いなくても(1982、1985、1999)、最後には、妻殺しのビル・サイクスが群集に追われて最期をとげるのが原作に沿った「慣わし」だった。それが、2007年版では、ごくあっさりと結末に持っていってしまう。この部分だけは、もっと原作に近づけた方が盛り上がったのではないかと思うのだが…

クリック『オリバー・ツイスト』 の映画化による作品ごとの原作との違いの表
     (作品ごとの個別シーンの違いは、表の最左欄の黄色の文字をクリック)

オリバー役のウィリアム・ミラー(William Miller)について、製作責任者は、「750人くらいの少年に会いました。公開オーディションを2回、ロンドン中の演劇クラブや学校も」と述べている。脚本のせいかもしれないが、他のオリバーが受動的で表情に乏しいのと違い、ウィリアムのオリバーは、ごく普通の男の子。そこが新鮮で面白い、映画への出演はこれ1回だけ。ドジャー役は、映画によって年齢がすごく違う。オリバーに一番年齢が近いのがこの映画。演じているのはアダム・アーノルド(Adam Arnold)。彼も映画出演はこれ1回のみ。


あらすじ

映画の冒頭は、名匠デヴィッド・リーン監督による1948年版へのオマージュから、嵐になびく大木の枝のシーンから始まる。しかし、似ているのはこの部分だけ。後は、独自のオリバーの世界を開拓している。産気づいた女性が真っ暗な激しい雨の中を歩き何とか救貧院の門まで辿り着き、鐘を鳴らして助けを求める(1枚目の写真)。柵の上には「マッドフォッグ〔Mudfog〕救貧院という文字が見える〔ディケンズによる『The Mudfog Papers』(1837)から取られた名前。マッドフォッグは架空の町で、ディケンズが若い頃を過したチャタムに比定されている。しかも、最初に『オリバー・ツイスト』が月刊誌に連載され始めた頃は、オリバーの生まれたのはマッドフォッグだとされていた(出版にあたり削除された)。この映画では原点に戻っている。ただし、原作ではロンドンまで約75マイル(120キロ)とあり、チャタムの倍以上の距離にある〕。中に運び込まれた女性は、医師の手で無事に男の赤ちゃんを出産する。その部屋にいるのは、医師、婦長のコーニー、手伝いのサリーの3人。女性はまだ生きているのに、コーニーはサリーに「済んだら、葬儀屋に棺桶の手配を。服は、泥を落として消毒したら、うちがもらう。ペチコートも全部。この娘には、リネンやレースは要らんけん」と言って医師と一緒に出て行く〔コーニーは訛がひどく、服装も貧弱。原作や、他の映画ではコーニー夫人は、元院長の未亡人というご身分だが、この映画では、「子供時代をこの救貧院で過した女性」という設定で、「社会の階段」を上がることに飢えたさもしい女性〕。サリーと2人だけになった時、女性は、「お財布に手紙が… お願い、郵送して。この子のために、どうか」と頼む。サリーは、「うちの役目じゃなか」とつれない。「郵送して。必ず。そして、この子に会いに来る人に伝言して。こんな顛末ですが、アグネスはご親切を 忘れませんと。どうか、手紙を出して。お願い」と頼む。サリーが、小さな袋の中を捜すと、そこには小さな封筒が入っていた。宛先は、「ロバート・ブラウンロウ様/ネプチューン広場6番地/ロンドン」(2枚目の写真、矢印)。サリーがアグネスのところに戻ると、もう彼女は死んでいた。サリーは、アグネスが首にかけていた金のロケット付きのネックレスを奪う(3枚目の写真、矢印)〔手紙を渡すのは、この映画のみ〕
  
  
  

本編は、子供たちが槙肌(まいはだ)〔古い麻綱をほぐしたもの。木造の軍艦が敵艦の砲撃で船体に穴が開いた時に詰める(漏水対策)〕作りをさせられているところから始まる。オリバーがくしゃみをすると、教区吏のバンブルが、「ツイスト、くしゃみするな」と叱って頭を叩く。オリバーは麻綱を食べようとする向かいの子に、「やめろ。食べるな」と注意する。「腹ぺこだ」。「みんなもだ。やめとけ。ぶたれるぞ」。しかし、お腹が空いた子は、麻綱を口に入れてしまう。見張っていたサリーが、「そこ、バンブルさん!」と叫ぶ。バンブルは、「泥棒!」と言って、口から麻綱を取ると、「盗みの、現行犯だ!」と、髪の毛をつかんで引きずっていく。コーニーは、「罰して、バンブルさん。見せしめのため、どうか、厳罰を」と声をかける。救貧院のひどい実態がよく分かる。そして、お馴染みのお粥の場面。食堂の正面には、「神は見ておられる〔God Seest Thou〕」と書かれている(1枚目の写真)。バンブルの杖を合図に子供たちは一斉に薄い粥を食べ始める〔食事は、毎日3回薄い粥、週に2度たまねぎ、日曜にパン半切れ〕。オリバーの粥には蛆がいたが、平気で蛆まで食べる。オリバーは、さっき罰せられた子が元気ないのを見ると、誰かが言わなくちゃ と決心し、椀を持って立ち上がる。バンブルの前まで来ると、「お願いします。もう少しください〔Please sir, I want some more〕」と頼む(2枚目の写真、矢印は皿)。「何だと? 何と言った?」。「こう言ったんだよ。お願いします。もう少しくださいって」(3枚目の写真)〔“I said” と言うのはこの映画だけ。強調していて、逃げ腰ではない〕
  
  
  

オリバーは、すぐに、救貧院の委員会室に連れて行かれる。そこでは、委員達が豪華な食事を楽しんでいた(1枚目の写真、矢印はオリバー、その左がバンブル)。バンブル:「オリバー・ツイストです。処分を決めて頂こうと思い、連行しました」。一番口うるさい委員Aから、「バンブル、規律が 維持できてないのでは?」と批判が出る。「わしが ですか?」。「槙肌を盗んだ奴が出たばかりじゃないか」。「鞭で ぶっ叩いてやりました。ほら、手にまめが。もう、盗む者はいないでしょう」。「監視を怠るな。鞭を惜しめば、甘やかすだけだ」。他の委員からも賛同の声があがる。それに対し、オリバーは、「鞭なんて行き過ぎだ」と口を出す。「不当だよ。あんな小さいのに」。バンブルは、「紳士方に 何て口の聞き方だ」と怒る。それでも、オリバーは「食べ物があれば、槙肌なんか食べない」と続ける。委員B:「手に負えん奴だ!」。委員A:「お前は一体 何様だ? この恩知らず。大食と貪欲と高慢の罪を犯しおって。赦しを乞うため跪くべき時に。神は見ておられるぞ、ツイスト〔God seest thou, Twist〕」。この後のオリバーの言葉が最高。「神は見てるよ、あなたも〔And he sees you, too〕」(2枚目の写真)〔非道さに対する反撃〕。委員Aは食べるのを止めて立ち上がる。「私達は お前を助けた恩人だぞ、ツイスト。無責任な母が 産み捨てた時、食べ物と着る物を与えた。聖書から学べるよう文字も教えた。住む場所すら与えたのに、これが、その恩返しか?」。委員C:「母親は、悪女(わる)に違いない」。委員B:「品位の かけらもない」。バンブル:「悪い血のせいです。血なら、出してやる」。委員A:「直ちに謝罪するんだ。お前のすべてに対し赦しを乞うんだな」。オリバーは、「嫌だ! 謝るもんか。僕は、どこも悪くない」と抵抗する。委員Aは「ツイスト、将来は絞首刑だな。宿命だ。首吊り縄だ。聞いとるか? はやし立てる群衆の前で、痙攣するんだ。その時になって、後悔するんだな」と悪態をつく(3枚目の写真)〔本来の「救貧法」では、貧しい者、病める者に食料や薬を与え、家のないものに救貧院という住む場所を与えてきた。しかし、1834年の「新救貧法」では、救済を受ける側に、ただで施しをするのではなく、できるだけ多くの仕事をさせ、食い扶持を稼ぐことを欲求した。ディケンズの皮肉な文章によれば、「すべての貧乏人は、救貧院に入ることによって徐々に餓死させられるか、救貧院に入らないですぐに餓死させられるか、どちらかを自由に選択すべきであるという規則」〕。原作のオリバーは非常に弱い存在なので、このシーンは革新的。
  
  
  

葬儀屋のサワベリーが救貧院の門の前までくると、貼り紙がある(1枚目の写真)。「子供売ります/5ギニー/バンブルまで」と書かれている〔原作では、オリバーは報奨金5ポンド付き。ほとんどの映画がそれを踏襲している〕。シーンは、サワベリーとバンブルの価格交渉に変わる。サワベリーは開口一番「2ギニー」。バンブルは「2?」と唖然とする。「チビだろ」。「だから、場所も取らん。売値は5だ」。「2だ」(2枚目の写真)。「4。これが最後だ。どっちか決めろ」。サワベリーはさっさと出て行く。バンブルは慌てて止めて「3で」と言うが、サワベリーは「2だ」と譲らない。「まるで追剥だな」〔因みに、当時の労働者の平均月収は3ギニー程度〕。サワベリーは、救貧院の死者(大人1人、子供1人)の棺桶を乗せた荷車をオリバーに牽かせて店に戻る(3枚目の写真)。
  
  
  

店に着いたサワベリーは、妻から文句を言われる。そこで、「悲しそうな顔つきだろ。そう思わんか?」と抗弁。「悲しい顔なんて、すぐできるわよ。倹約を強いる 旦那様が救貧院の宿なしに、浪費すれば。悲しい顔が好きなら、哀れな妻を見れば?」。「特売だった。この手の顔は、商売に役立つ」。「妻は、倹約のため、惨めな帽子で教会へ行ってるのよ。ヒソヒソ、ジロジロ、後ろ指まで さされてる。悲しい顔は、屈辱と絶望からの逃避なの」(1枚目の写真)〔帽子付きの夫人は40個も持っているが、「あたしは、我慢してるの、安ピカ物の帽子で」と口だけは達者〕。オリバーを買ったのを許す代わりに 新しい帽子を買う権利を獲得した夫人は、下女に「蚤の巣窟を、洗っておやり」「犬のティンカー用の食べ残しも」と命じる。オリバーは、頭をタワシでごしごし擦られて痛そう(2枚目の写真、矢印はタワシ)〔しかし、救貧院でも体は洗わないし、服は1着しかないので、頭を洗ったくらいではきれいになったとはとても言えない…〕。その後、オリバーは、床に座って夕食を頂く(3枚目の写真、矢印は犬用に取っておいた牛のすねの骨)。年上の奉公人ノアは、「やい、救貧院。てめぇは、棺桶のすき間で寝るんだ。死体には気い付けるこった、救貧院。昔、俺様が夜 起きたらよ、蛆虫が、目の穴から湧き出してた」と脅す。ここでも、オリバーは、「僕の名は、救貧院じゃない。オリバーだ」と挑戦的。
  
  
  

オリバーは、その夜、棺の近くの勘定台の下で寝る。翌日、オリバーは、床に寝させられ、頭の上に跨ったノアが屁をこき、下女がくすぐっている(1枚目の写真)。そこに入って来た夫人は、オリバーを見て、「なんで寝てる?」とノアに訊く。「知りません、奥様。休んどるんかも」。結局、「起きて。怠けるんじゃない」とオリバーが叱られる。2人だけになると、ノアは、「冗談の 分からん奴だ」と言う。「僕、何もしてない。放っといてよ」。「俺様は、放っときたくねぇのさ。哀れな孤児野郎。お袋も親爺もいねぇ。孤児で、絶対 確かなことは、どっかに、親爺がいるってことさ。死んじまったのは、お袋だけなんだ」。さらに、虐めは続く。「ご主人が 話しとった。バンブルの話だと、お袋には結婚指輪がなかった。てめぇは、用なしなんだ、救貧院。お袋の仕事 知っとーか? 売春婦だ。売春婦、知っとーか? はした金で、スカートを上げる女さ。死んだ方が、よかったんだ」(2枚目の写真)「なんせ、てめぇのお袋は汚らわしい、売春婦で…」。ここまできて、オリバーは、棺の蓋でノアを一撃する。そして、上に跨ると、「でらため言うな! 嘘つき! よくも、母さんの悪口を!」と、ノアの頭を床に叩きつける(3枚目の写真)。
  
  
  

騒ぎに気付いた夫人は、オリバーをつかむと棺桶に入れ(1枚目の写真)、蓋を持って来させてノアと2人で座って出られないようにし、下女にバンブルを呼びに行かせる。やってきたバンブルが言う有名な台詞が、オリバーの「犬の餌」を見て、「狂ったんじゃない。肉だ。肉ですぞ! このせいだ。肉のすじは血をたぎらせ、脳天を狂わせる。科学的な実証も。気前が良すぎたんですな、奥さん」〔原作の2倍以上〕。サワベリーもその場にいるが、怒った様子もない。サワベリーに、オリバーを閉じ込めた棺がすぐに必要だと言われたバンブルは、「一生忘れんよう、鞭打ってやる。背中の皮を剥がしてやる」と脅し、蓋を開けるが、オリバーは一気に飛び出し、左手をつかんだサワベリーの顔を右手で殴り、奥の部屋に逃げ込み、ドアが開かないように取っ手を引っ張りながら、横にあった大きなパンをつかむと、一気に手を放す。お陰で、ドアを開けようと引っ張っていたノアとサワベリーがひっくり返る。その隙に、オリバーはバンブルを飛び越え(2枚目の写真、矢印はパン)、足をつかんだノアを蹴飛ばし、扉の狭い隙間から外の街路に逃げ出す。扉には鎖が巻かれていて大人は通れない。バンブルは、犬に尻を噛まれ、置いてあった棺は連鎖して倒れ、中はめちゃめちゃに。オリバーは墓地を全速で駆け抜け、原作によれば町から5マイルほどの所にある道標まで辿り着く(3枚目の写真、矢印はパン)〔道標は、ロンドンまで70マイル〕
  
  
  

オリバーは街道を通らず、森を抜け、草原を歩き、もう安全と思って街道に戻る。しばらく歩いていると、行く手から四頭立ての馬車が高速で近付いて来る。オリバーは急いで太い幹の後ろに隠れる(1枚目の写真)。通過していた馬車に乗っていたのは1人の紳士。特徴は、球状の銀の玉が付いた杖を持っていること(2枚目の写真、矢印)。その直後、カメラは車内に切り替わり、男の手に持った手帳には各地の救貧院の名前が書かれ、横線で消されている。このことから、男が、救貧院を順番に訪れて何かを調べていることが分かる。男の言った先はマッドフォッグ。次のシーンでは、バンブルが、「その月の誕生は1人だけです、モンクスさん。この場所で、アグネス・リーフォードが出産。オリバー・ツイストと命名。わしは、名前を付けるのが得意でして」と説明する(3枚目の写真)。コーニーが、「娘は産褥熱で死にました」と付け加え、「模範収容者が、つきっきりでした。その女を呼びます」とサリーを呼ぶ。サリーは、手紙とロケットを秘密にしておきたいので、ちょうど罹り始めた結核の咳を強調し、「なんも覚えてません、婦長さん」で押し通す。モンクスは、オリバーが出奔したことを聞きがっかりするが、情報料として金貨3枚を机の上に投げて寄こす。コーニーは、「子供は行方不明ですが、何か やらかすに決まってます。バンブルさんと、うちの耳に入るかも。連絡先を残されたら、どうです?」と提案する。
  
  
  

その後は、オリバーが歩く様子が映される。晴れた日ばかりではなく、どしゃ降りの日も。パンはなくなり、靴は壊れて捨ててしまう。結局、裸足で歩き続けることに。どこかの納屋の入口で雨を凌いで寝ているシーンもある(1枚目の写真、矢印は裸足)。オリバーは、その後、ロンドン市内に入る。馬車の行き交う舗石道路の上を歩く(2枚目の写真、矢印は裸足)。一瞬だが、オリバーの背後にセント・ポール大聖堂が見えるので、都心に来ていることが分かる。オリバーがきれいな街路を歩くシーンがしばらく続くが、そのうち周辺の雰囲気が悪くなり、路面は未舗装の泥んこになり、道行く人の服装も貧相になってくる(3枚目の写真)。疲れ果てたオリバーは、これ以上どこに行ったらいいか分からず、道路際の煉瓦壁に寄りかかって泥道に座り込む〔原作では、バーネット(ロンドン橋の北北西18キロ)に着き、そこでドジャーに会い、都心近くのサフロン・ヒル(ロンドン橋の北西2キロ)の南につながる狭いフィールド・レイン(上のJohn Rocqueの古地図の黄色の路地)に行く/映画では、オリバーは自分で都心を経由してフィールド・レインの近くまで歩く〕
  
  
  

浮浪児になったオリバーの前に現れたのは変な服装をした少し年上の少年。「よう、あんちゃん、どうしたい?」と声がけしてくる(1枚目の写真)。オリバーは立ち上がり、ロンドン訛が強かったので「何て?」と訊き返す。「それ何だ、喧嘩かよ? 涙の跡だろ、どうしたのさ?」。警戒心の強いオリバーは、「何も」と言って立ち去ろうとする。「待てよ。なんで逃げる?」。「君のこと、誰かも知らない」。「『誰かも』? 心配なんか? サツかも、しれねぇってか?」。「何て?」。「もち、どう見たって違わぁな。俺はジャック・ドーキンズ」(2枚目の写真)「けど、ダチの間じゃ腕利きドジャー〔The Artful Dodger〕だ。ドッジって呼びな」。「僕、オリバー・ツイスト」。「着いたとこか? 旅がらすかよ〔All on your tod〕?」。「『からす』?」(3枚目の写真)。「一人旅だ〔Your own〕。旅がらすは、一人旅。おめぇ、うぶだな? マジで、何も知らねぇんだ」。この時、2階の窓から、バケツの中の尿が警告なしに捨てられ、かかりそうになる〔当時の衛生状態は最悪⇒どろんこ道の原因の幾分かは尿?〕
  
  
  

「寝るとこ、あるんか?」。「ううん」。ドジャーは近くの家への通路に入って行く。「おいら、親切な殿方 知ってる。まあ一種の、ほら、言うだろ… 慈善家さ。タダで泊めてくれる」。ドアが開き、オリバーは中に招じ入れられる(1枚目の写真)。そこにいたのは10名ほどの少年たち。全員がオリバーより少し年上だ。ドジャーは、「おいらのダチだ、フェイギン」と、暖炉でソーセージを焼いている年輩の男性に声をかける。フェイギンは、フライパンを持ったまま振り向くと、「やあ、坊や」と笑顔を見せる。そして、食事は始まる。オリバーにもソーセージが丸ごと1本配られる(2枚目の写真、矢印)。オリバーは、ドジャーがソーセージを皿に置いてもポカンとしている。「何か、知らねぇんだ」。フェイギンは、「ソーセージじゃ、オリバー。お食べ」と声をかける。「丸ごと?」。ドジャー:「うぶなのさ。産着が似合うぐらい〔Green. Green as a cabbage〕」。「皆、食べてええんじゃよ」。「おじさんは? 食べないの?」。ドジャー:「食べねぇんだ。ユダヤだから」。オリバーは手づかみでソーセージにかぶりつく。「どうだ、旨いか? めいっぱい食べろ、ノリー〔Nolly〕」。「ノリー?」。「オリバーじゃ、長いだろ? あだ名 できたから、仲間だ」〔ノリーという表現は、他の映画では一切出て来ないが、原作には出てくる。それは、後でナンシーが裁判所にオリバーがどうなったか訊きに行った時、「いるかい、ノリー?」と声をかける場面。最初のマッドフォッグもそうだが、この映画は細部に拘っている〕。しばらく話していると、ナンシーがやって来る。夫のビル・サイクスが盗んだ物を故買屋のフェイギンに渡すためだ。原作と違い、ナンシーとドジャーはすごく仲がいい。そこで、ナシンーは盗品を渡すと、子供たちが食べているテーブルに行き、ドジャーの帽子を取り上げ、「何度 言わせるの? 帽子被って食べると、お里が知れるわよ」と言って額にキスする。「よせやい」。その時、ドジャーの隣に座っているオリバーに気付く。「これ誰?」。「今日の新顔」。オリバーは、「オリバー… ノリー」と名乗る。「オリバー・ノリー? おかしな名だね? 男だから いいけど、ミセス・ノリーなんてね」。それだけ言うと、「オリバー・ノリー、あたいは、ナンシー」と自己紹介する。オリバーは席を立つと、「座ったら、ミス・ナンシー?」と訊く。ドジャーが「『ミス』なんて付けるなって… そんな柄かよ… ただのナンシーだ」と言うと、ナンシーは、「お黙り、この子が、どう呼ぼうと勝手」とドジャーを叱り、「ありがとね、オリバー」と座り、「あんた、いっぱしの殿方だね」(3枚目の写真)「思いやり あるし。他の連中とは大違い」と喜ぶ。その時、鑑定を終えたフェイギンが来て、「皆 ニッケル。銀メッキじゃ」と言い、少ない金額を渡す。ナンシーはがっかりして帰る。
  
  
  

夜、オリバーが寝ていると、争う声が聞こえてくる。ナンシー:「ビル、放しておやりよ」。フェイギン:「ビル、窒息しちまう」。ビル:「騙しやがるのが、がまんならねぇ!」。ナンシー:「おやめよ。首を絞めるのは。縛り首だよ、ビル」。「まさか。勲章もんだぜ」。「放しなさいよ。お金くれるから。さあ、放して」。オリバーは声のする方にこっそりと近づいて行く。ビルが、フェイギンの首を絞めるのをやめる。フェイギンは苦しそうにむせる。オリバーはカーテンの陰からそれを見ている。ナンシー:「懲りないんだから。お金出して」。フェイギン:「出す。出すから」。「そうそう」。その時、ビルがオリバーに気付く。「何 見てやがる? てめぇ、目ん玉、叩き出してやろか?」。ナンシーが、「オリバー、寝床に戻って」と言うが、オリバーは、それを無視して「聞いてたよ」と答える。「怯えてたんで心配したんだ。何してたの?」。「心配ないの、オリバー。誰も怯えてない。冗談。気晴らし」。それだけ言うと、今度はフェイギンに、「でしょ、フェイギン? 気晴らしよね」と声をかけ、フェイギンも、「そうなんじゃ、ノリーや。パイが喉に詰まってな。サイクスさんが、揺すって取ってくれた」と嘘をつく。それでもオリバーの強い視線は変わらない。ビルは、「まだ、見てやがる。なんで見るんだ?」と脅すような声で訊く。ナンシーは、「新人なの、ビル。知らんのよ。今日来たとこ。だから、知らんの。ね?」とオリバーの後ろから守るように触る(2枚目の写真)。ビルは、オリバーの顔に自分の顔を近づけ、「このつら、見ろや。無垢そのもの」と言いつつ、指を近づける(3枚目の写真)。「『何も見てません、閣下』と言ってみろ」。オリバーはその通り口にする。ビルは、「気に入った〔I like him〕」と一言。そして出て行く。ナンシーは、「勇敢なのか、頑固なのか、きっと、両方ね」と声をかけ、ビルの後を追う。
  
  
  

翌朝、ドジャーが外で卵を2個調達してくる。フェイギンは、それでベーコン&エッグを作り。その時、着替えをもらったオリバーが、颯爽とした姿で現れる。ドジャー:「粋だぜ」。フェイギン:「見違えるようじゃな、ノリー」。「ほんとにいいの フェイギンさん? 払えないよ」(1枚目の写真)。「些細なことじゃ、気にせんでええ」。オリバーは天井からぶら下がったたくさんのハンカチに気付く。「ハンカチ、一杯 あるね」。「ああ、きれいじゃろ?」。そして1枚取ると、「紳士になったみたいじゃな」と言いながら、丸めたハンカチをオリバーに見せる(2枚目の写真、矢印)。「みんなは、どこ?」。「皆 頑張っとる。働いてな」。「何やって?」。「あれやこれや。首尾よく儲け、食いぶちを稼ぐ。食べるためには必要なことじゃ」。「僕も 頑張るよ」。その後、フェイギンは2人に一緒の朝食を食べさせ、自分は出て行く。次のシーンでは、フェイギンとドジャーが居酒屋で話している。オリバーが、ドジャーを親友だと思って打ち明けたことを、すべてフェイギンに話している(3枚目の写真)。そして、最後に、「目玉焼き2個で全部聞けた。地獄耳だろ」と自慢する。フェイギンは、「お前さんは凄腕じゃよ」と褒める。
  
  
  

そして、オリバーは、いよいよ、ドジャーと一緒に出かける。「仕事 教えてくれるの?」。「そうだ」。「仕事って、何?」。「だから、今から教えてやるって」。仕事の内容は言わない。2人は外を歩いている。フェイギンの家の周囲と違って綺麗な場所だ。「幾つか原則を… 気転をきかせ。ためらいは禁物。指さばきは軽く。カモから目を離すな」(1枚目の写真)。これでは何も分からない。「『カモ』?」。「訊くんじゃねぇ、ノリー。見るんだ。あれだ」。2人の行く手には本屋があり、その店先で1人の紳士が本を立ち読みしている。「訊くんじゃなく、見て学べ。いったん始めたら、気い抜くな」。それだけ言うとドジャーは真っ直ぐ紳士に近づいて行く。オリバーは少し後ろで見ている。ドジャーは、紳士の上着のポケットに指を入れ(2枚目の写真、矢印)、財布を抜き取ると、ニコニコしながらオリバーの前を通り過ぎて行く。オリバーは、びっくりして身動きできない。その時、紳士が振り向き、ドジャーを見て、「わしの金を! あの子が盗った!」と叫ぶ。しかし、群集が追ったのは、紳士が期待したようにドジャーではなく、別方向に逃げ出したオリバーだった〔原作では、紳士はオリバーが盗んだと思う〕。紳士は、「違う、そっちじゃない、あっちの子だ!」と叫ぶが、誰も聞いていない。紳士(ブラウンロウ氏)は、「エドワード! 間違った子を 追ってるぞ!」と大声で言いながら反対側に走って行く。オリバーは必死に逃げるが、最後には警官に捕まる(3枚目の写真)〔エドワードは紳士の孫〕
  
  
  

フェイギンの元にすごすごと帰ったドジャーは、「ばかもーん!!」と怒鳴られる。それを聞いていたビルは、「てめぇが見てこい、フェイギン」と命じる。「わしが?!」。「奴がチクったら、俺たちゃ吊るし首だ」。フェイギンは出かけ、ドジャーはビルに張り倒されて気を失う。オリバーは裁判所に連れて行かれる。判事は、原作と違い酔っ払いではないが、もっと意地悪な人間。また、原作と違い、告訴人としてのブラウンロウ氏もいない。警官が、「先ほど、紳士の財布を盗りました」と報告する。込み合った傍聴人席の後方ではフェイギンが変装して聞いている。オリバーは小声で自分の名前を言うが、判事は聞こえないので、警官が聞いて「オリバー・ツイストだそうです」と言う。原作も含め、どの映画でも、オリバーは声が出せないほど弱っているので、官吏が適当に名前をでっちあげる。ここで、本名を言ように変更したのには大きな理由がある。理由は、すぐに分かる。というのは、その直後に、球状の銀の玉の付いた杖を持った顔が映るからだ。この男は、救貧院で、「アグネスの産んだ子がオリバーと名付けられた」ことを知っている。だから、これで、捜していたオリバーが目の前にいることが分かった。判事は、「スリ… 街のダニ。どぶ鼠より たちの悪い疫病神」と告げる。オリバーは「僕じゃない」と否定する(1枚目の写真)。「じゃあ、誰がやった?」。オリバーはドジャーを裏切れないので黙っている。「じゃあ単独犯だな。卑しくて腐っとる。心証を悪くするぞ。監獄か、植民地か… それとも…」。そこまで言うと、書記に「今週、何人 絞首刑にした?」と訊く。「22人です。火曜日だけで」。「簡単だ。吊るそう」〔ひどい判事だ〕。その言葉を聞いて、男がニヤリとする(2枚目の写真、矢印は銀の玉、顔の特異な形の母斑が特徴)。判事が死刑判決を宣告し始めると、「待て!」の声が響く。ブラウンロウ氏が入ってきて、「それは、違う子だ!」と大きな声で言う。「もう遅い」。「事前に連絡させた」。この言葉で、男が帽子を深く被り、顔を隠すので、彼は、本来、間違いを正すために法廷に来ていたらしいことが分かる〔彼がエドワード/別名モンクス〕。「私自身も急いで来た! それは違う子だ!」。腹を立てた判事は、無効と知りつつ、「間違いだろうがなかろうが、判決は言い渡さないと」と言い、ワザとオリバーを脅すように、「お前は死ぬまで首吊り状態にされ、お前の死骸は死体穴の中で腐るまま放置される」と告げる。あまりの恐ろしさに、オリバーは(それまでの疲労も重なって)気絶する(3枚目の写真)。上の地図は、オリバーの移動ルートを示す。印はフエイギンの「根城」、印は本屋、印はブラウンロウ邸(地図は、1899年にCharles Boothによって作られたもの)。
  
  
  

画面は真っ白になり、再び元に戻ると、老婆(ベドウィンさん)と若い女性(ローズ)が誰かを見ている。女性が、「オリバー」と呼ぶので、カメラの側にオリバーがいることが分かる。カメラは切り替わり、清潔なベッドで眠っている汚いオリバーが映る。オリバーはびっくりして飛び起き、「僕、死んだの? ここはどこ? 誰なの?」と怯えて尋ねる。「ローズよ。あなたは死んでいないの、オリバー。生きているわ」(1枚目の写真)「それに、今は安全なの。安心なさい」。その後、夕食のシーンに変わる。ブラウンロウ氏が、「ベドウィンさん、少年の具合は?」と尋ねる。ベドウィンさんは食欲が出て来たと伝え、ローズには「古い子供服を見つけました」と話しかける。それを聞いたローズは、「伯父さま、退席しても?」と訊く。ベッドの上には、お風呂に入ってきたオリバーがタオルを巻いて座っている。オリバーがベドウィンさんの持ってきたシャツを着ようと上半身裸になると、背中には一面に鞭の傷跡が残っている。それを見たローズはショックを受ける。それに気付いたオリバーは、「大丈夫だよ。もう痛くない」と安心させる(2枚目の写真、矢印は傷跡の一部)。ローズはオリバーが慣れないシャツを着るのを手伝う〔貧民用の物と違い構造が複雑〕。ローズが、「面倒だわね?」と訊くと、オリバーがニッコリする(3枚目の写真)。
  
  
  

少し大きめの古着とはいえ、一応ちゃんとした子供服を着たオリバーは、ブラウンロウ氏の前に連れて来られる。「回復したのを見て、私も嬉しいよ、オリバー。もっと元気になって欲しい」(1枚目の写真)。「ありがとうございます。裁判所で助けてくれて、ありがとう」。「当然のことだ」と微笑む。それだけ言うと、前から下がらせる。ブラウンロウ氏のそっけない態度に、部屋から出たオリバーは、「ベドウィンさん、僕、嫌われたの?」と尋ねる。その理由は、部屋に戻ってからたっぷり訊かされる(2枚目の写真)。昔は親切で寛大な人だったが、悲劇が起きてすっかり変わったこと。しかし、その先が、曖昧。「男女が恋をした。でも、認めてもらえなくて強い反対に遭ってしまう。でも、二人はお互いに確信してたの。真に本当の愛だと」。そして、最後は、「悲嘆、絶望、失踪」。後で分かることは、ブラウンロウ氏にはウィリアムという息子がいて、結婚し、エドワードという子が生まれた。何らかの事情でウィリアムはアグネス・リーフォードと恋愛関係になり、ウィリアムは死に、アグネスは身ごもり、庶子オリバーを産んで死んだ。そして、ローズはアグネスの妹にあたる。なぜ、ローズはブラウンロウ氏のことを伯父〔uncle〕と呼んだのだろう? それは、その直後のローズとオリバーの会話で解明する。「ほんとの伯父さんなの?」。「そう呼んでるだけ。ブラウンロウさんは後見人なの。姉と私を身内のように… 私たちには家族がいないから。両親もね」(3枚目の写真)。「お姉さんは?」。「ここには、いないわ」。
  
  
  

フェイギンの「根城」では、ビルとナンシーが話し合っている(1枚目の写真)。フェイギンが 「奴を 連れ戻さんと」と言うと、ナンシーが「なんで?」と反対する。「裁判でもチクらなかったのに、今さらチクらない」。「判事野郎の前じゃあ 怖いじゃろ。口もきけんくなる。今、奴は、どこにおる? そっちでバラすかも」。「しないわ。放っときなさい、フェイギン。幸運は邪魔しない」。「じゃけどな、危険がデカ過ぎる」。「係わらないからね」。ここで、ビルが口を挟む。「言われた通りにするさ」。結局、ナンシーは、させられることに。オリバーの手元に1通の手紙が届く。そこには、こう書かれてあった(2枚目の写真)。「ツイスト坊や、知りたいでしょ、亡き お母さんの身元を。彼女が、いかに完璧で立派な方だったかを。今日、ゴールデン街に来て下さい。待っています。誰にも内緒でね。あなたの忠実にして秘密の友より」。オリバーが、本の陰に隠して手紙を読み返していると、ブラウンロウ氏がローズに、「その本、まだ支払ってなかった」と言い出す(3枚目の写真)。「オリバーが、泥棒呼ばわり された日だ。泥棒は私だった。可哀想な本屋に支払わないと」。ちょうどいい機会なので、オリバーはすぐ、「僕、行きます。使い走り、やらせて下さい」と名乗りをあげる。
  
  
  

オリバーが、本代〔原作では5ポンド札1枚〕と手紙を持って出かけると、待ち構えていたナンシーが呼び止める。「とても立派ね、オリバー。凄いわ」(1枚目の写真)「ごめんね。ちょっと、酔ってるの。酔ってないと、とてもできないから」。「『できない』って、何を?」。「一緒に、あの角まで行ったら、教えるわ」。「無理だよ。会う人がいる」。「一緒に来て」。ここに至ってオリバーにはピンとくる。そして、目を細めて、「『秘密の友』って、ナンシー?」と訊く(2枚目の写真)。オリバーは、母のことが何か分かるかと思いナンシーについて行く。しかし、途中でビルがオリバーに麻袋をかけ、そのまま路地の奥にある小部屋まで運ぶ。袋から出されたオリバーは、ビルに飛びかかろうとするが(3枚目の写真)、強すぎて相手にもならない。「何で、連れてきた!」と殴りかかるが、リーチが短くて届かない。ビルに、「そうだ、ノリー。左右のパンチだ。とことん、殴れ!」と遊ばれるだけ。フェイギンが「なあ、ビル、もう十分じゃろ」と止めさせ、重い扉が閉められる。オリバーは、「出せ! ここから出せ! 出せ!」と、扉を叩き続ける。
  
  
  

叩き疲れたオリバーは、手元にあった手紙を破り捨てると、泣く(1枚目の写真)。一方、ブラウンロウ邸では、オリバーが戻らないのでベドウィンさんが調べに行き、「本屋には行っていません」と報告する。ローズは、「何か、起こったんだわ」と心配するが、ブラウンロウ氏は「ポケットにはお金、いい服を着て… 結局、泥棒だったんだ」と決め付ける。「いいえ、伯父様。違います」。「盗っ人を 家に…」。「伯父様」。「ローズ、聞きたくない。たとえ一言たりともだ! 一言もだぞ!」(2枚目の写真)〔このブラウンロウ氏の短気さ・非寛容さは、原作や他の映画の設定と異なる〕。場面は、オリバーが閉じ込められた小部屋に戻る。もう暗くなっている〔明かりは、天井に開いた小さな穴だけ。夜になれば真っ暗〕。そこに微かな光と1本の杖が現れる(3枚目の写真、矢印)。「熟睡しとる」。そして、フェイギンの顔が映る。「疲れきって。これが、その子。オリバー・ツイスト。モンクスさん、この子を、どうしよるお積りで?」。そこでカメラが切り替わって映すのが、顔に母斑のある男。マッドフォッグまで調べに行き、ブラウンロウ氏の代わりに裁判に出ていて、「無罪の証言」をしなかったあの男だ。モンクスは、「死んでもらう。この世から消えて欲しい」と言う。ここで、TVミニ・シーリズの第1回目が終わる〔劇的ではあるが、フェイギンとモンクスがどこで知り合ったかが分からない。この地域で子供を使ってスリをさせている元締めをモンクスが捜し、フェイギンに辿り着いたという可能性はあるが、ちゃんと説明して欲しかった〕
  
  
  

ドジャーが道沿いの露店からパンを1つ盗む。次いで、オリバーが閉じ込められた小部屋の扉の下の小穴が開き、そこからパンの切れ端とソーセージの載った皿が入れられる(1枚目の写真、矢印)。扉の外では、ドジャーが木箱の上に乗り、扉の上部にある覗き穴の蓋を開け、中を見る(2枚目の写真)。ドジャーは「ノリー」と声をかけるが、オリバーは無視する(3枚目の写真)〔理由は後で分かる〕
  
  
  

テムズ川沿いの桟橋の下で、フェイギンとモンクスが密会している。「お早う、モンクスさん。ここなら自由に話せると。汚い場所は、お嫌いで?」。「汚い? 私は気に入っている」。ここで、ブラウンロウ家の朝食に切り替わる。ベドウィンさんは、テーブルクロスが擦り切れてきたので新調する必要があり、他にも買う物があるので、今日でかけると主人に告げる(1枚目の写真)。ローズは、「私も 付き合いましょうか?」と言い、ブラウンロウ氏の許しを得る〔オリバーを捜しに行く口実〕。場面は再び桟橋の下。「伺っても? なんで、あの子の始末を? 紳士方の流行の気晴らしですかな?」(2枚目の写真)。「フェイギン君、理由や動機の詮索はやめたまえ」。「了解です」。「目的は明確だ、絞首刑にしろ。乞食の子を吊るすくらい簡単だろ?」(3枚目の写真、矢印は母斑)「奴を逮捕させるんだ。確実に絞首刑になるような犯罪で」。たっぷりの礼金を約束し、この汚い契約は成立する。
  
  
  

ドジャーは、「ほら、ノリー。食い物だ。豪華版だぜ。ソーセージだ。おめぇ、好きだろ」と声をかける(1枚目の写真)。「さあ、ノリー。ふて腐れてないで。『いったん始めたら、気い抜くな』って言ったろ。おめぇ、真後ろにいたよな? おめぇが 捕まったって、おいらに 分かるかよ? 次は、もっと早く走るんだな」。オリバーは、「みんな親切だった。僕は泥棒だと思われてる。僕が盗んだと思ってるんだ!」と怒鳴る(2枚目の写真)。ドジャーは、「おめぇのことなんか何とも思っちゃいねぇさ」と宥める。そして、オリバーが皿を取った音を聞き、再び覗き穴から「それでいい。食えよ。仲間のトコに戻ろうぜ」と言うと、それを待っていたオリバーは(3枚目の写真、矢印はパン)、覗き穴に向かってパンを投げつける。すると、ドジャーの前にビルが現れる。
  
  
  

テムズ川の泥のついた靴をハンカチで拭ったモンクスが、ブラウンロウ邸に入って行く。ブラウンロウ氏は、モンクスが入って来たのを見て、「エドワード! 愛しい孫よ!」と相好を崩す。「お祖父様」〔ここで、ブラウンロウ氏の孫=モンクスという、この映画独自の設定が明らかになる。原作を含め、どの映画でも、ブラウンロウ氏とモンクスとは他人なので、この設定は意外そのもの〕。ここで、場面はフェイギンの「根城」に変わる。彼は1人で、愛鳥のカラスに向かって話している。「モンクスの奴、自分の手は汚さん気じゃ。わしらは、常に苦菜(にがな)を食べてきた。奴は、わしの首に縄を巻く積りじゃ。あの子と同じように。わしらは、自問せんとな。なんで、資産家が男の子を死なせたいのか? 紋章入りの指輪、銀の握りの付いた杖、最高級の革靴を履いた男が、救貧院から逃げた子を、なんで絞首台に吊るしたいのか。陰謀の匂いじゃ。モンクスの奴が、大金を払ってオリバーを消したいんなら、逆に、見つけてやったら大金を払う人間もおるはず。見張りながらじっと待つんじゃ、神の与え賜う啓示を。ノリーは、絶対、金の成る木じゃ」(1枚目の写真)。一方、モンクスは、祖父に詫びている。「突然消えて済みません。スリの件で裁判所に行けと言われ、僕は間違った法廷に。その後、伝言を受け取り、そのまま探索の旅に発ちました」(2枚目の写真)〔巧みな言い逃れ〕。「残念ながら、収穫は皆無でした。お祖父様、この探索には膨大な時間が。あなたの健康が心配です」。「私は諦めんぞ。お前が、私の代理を務めてくれる限り」。「もちろん、私はやる気です。あなたの依頼ではなく、僕の意志として」。「この10年、ずっと不憫に思ってきた」。「アグネスと子供を見つけましょう」。「心から感謝しとるぞ。お前の父親も誇りに思うだろう」〔モンクスにとって「アグネスの子」捜しは復讐のためだが、祖父にとっては、それが最優先事項。だから、孫=モンクスに感謝しこそすれ、疑いを差し挟む余地はゼロ〕。次に、救貧院での短い一コマ。子供たちへのお粥配りの際、コーニーのお尻に目をやるバンブル(3枚目の写真、矢印は目線の向き)。そこには好色の芽が…
  
  
  

フェイギンが、「金づる」のオリバーの様子を見に行き、「ノリー坊や」と言いながら覗き穴を開けると、中にはドジャーが閉じ込められていた。「おいらを閉じ込めて ノリーを連れてった」。そこに、ビルが現れる(1枚目の写真、矢印は覗き穴)。3人は酒場に行く。ビルが酒代を払い、フェイギンは「悪いな」と感謝する。ビルは、「すべての判事に、死を」と言い、乾杯する。フェイギンは、「それで、ノリー坊主は、今 どこに?」と訊く。「心配せんでいい。楽しんどる。てめぇこそ何を企んどる、フェイギン?」。「何も」。「もし、ガキがバラす積りだったら、裁判所でやってた。だが、てめぇは連れ戻し、王冠の宝石みたいに見張ってた」。「ビル、頼むよ。そう疑り深くなるな。わしは、あの子がチクらんよう、確実を期しただけ」。「そうか。なら、俺が 仕事でちょいと使っても いいな? 奴は役に立つ。小さいからな。どこにでも入れる」(2枚目の写真)。これを聞いたドジャーは、「おいらが行くよ、サイクスさん。重宝するぜ。頼むよ」と懇願する(3枚目の写真)。しかし、ビルは完全に無視。「密告の防止なら、仲間にするのが一番だ。それとも、何か訳でもあるのか… ガキを使って欲しくない、特別な?」。こう追及されて、フェイギンには、「ないとも」としか言えない。「じゃが、一度 会っておきたい」。そこで、フェイギンはビルの家へと同行する。
  
  
  

オリバーをチェックしたフェイギンに、ビルは、「すべて、申し分ねぇだろ?」と訊く。「上着は どうした?」(1枚目の写真)。「今はねぇ」。「それに、靴は、どこじゃ?」。「さっき、飲んだろ〔酒代〕。靴はやたら音を立てる。裸足なら音一つしねぇ」〔原作でも、他の作品でも、オリバーは新しい靴をもらう。裸足なのはここだけ〕。フェイギンは、オリバーに 「大丈夫かい?」と偽善的に訊く。ビルは、「もち、大丈夫。こいつは、チビの闘士だ。派手にドジャーと口論してた。皿まで投げつけて。自分の面倒くらい見れる。そうだな?」と言うと、オリバーに近づいて顔をじっと見る。「ちび闘士。肝っ玉小僧」。オリバーに握った拳を突きつける。拳を顔に向けてジャブのように何度も突き出しても、オリバーは平然としている。「見ろ。全然 平気だ。何で、俺を怖がらない?」。オリバー:「もっと悪い人、見てる」(2枚目の写真)。モンクスは、「俺より悪い、だと?」と笑う。「俺より悪い奴など いねぇ。絶対。俺様は極悪人だ」(3枚目の写真)。ビルは、フェイギンに、「さあ、見たろ。とっとと、失せな」と言うと、「ひと眠りしておく」と言ってカーテンの奥に入って行く。
  
  
  

フェイギンは、別れる前に、「今夜、サイクスさんと出かけたら、言われた通りにするんじゃ。サイクスさんは狂暴なお人じゃ。わしは、お前さんの無事な姿が見たい。分かったかな?」と念を押す(1枚目の写真)。フェイギンが出て行くと、今度はナンシーがオリバーの前に来る。「あたいは、連れ戻したくなかった。本当だよ。やりたくなかった」と謝る(2枚目の写真)。「知ってる」(2枚目の写真)。「ほんと? 憎んでないの?」。オリバーは首を横に振る。
  
  
  

ここで、順序は入れ替わるが、その日のローズの行動を、まとめて取り上げよう。最初は、3人で酒場に入った後に挿入されたシーン。ローズとベドウィンさんが貧民街でオリバーを捜している(1枚目の写真、矢印はローズ、その左がベドウィンさん)。ローズは、1人の男に、「済みません。助けて下さい。男の子を 探してるのです」と声をかける。男は、もう1人の連れに向かって、「聴いたか? 『男の子〔boy: 若者、男の意味もある〕』を お探しだとよ。俺じゃ駄目かい、お嬢さん?」。もう1人は、「いんや、俺を ご指名さ。相性ばっちりだ」。如何にもスラムらしい品の悪さ。ベドウィンさんが「恥さらし!」と非難すると、「虫ずが走るぜ」「醜い くそ婆」と罵り、去って行くローズには、「白い手袋の嬢ちゃん、待てよ」「なあ、一緒に汗でもかかねぇか」と淫らな言葉を投げる。2番目は、オリバーとナンシーの会話の次に入るシーン。家に戻ったローズは、泥まみれになった靴を脱ぎ、着替えるために2階に上がって行く。ローズは階段を上がったところで、モンクスに出会う(2枚目の写真)。「まさか、お見えになるとは。嬉しい驚きですわ」〔これは建前〕。「嬉しいのは僕です」〔こちらは本音〕。モンクスは、旅の成果はゼロだったと嘘をつく〔旅になど行かず、フェイギンと会っていた〕。3番目は、次の節の後に入る場面だが、関連しているので先に取り上げよう。夕食の席。いつもと違い、モンクスもいる。ブラウンロウ氏から「今日は、何をしたのかね?」(3枚目の写真)と訊かれたローズは、「美しいレースが幾つもあって決めかねました。明日、ベドウィンさんと、もう一度行きます」と答える。そこに、モンクスが、「ご一緒できれば、幸いです」と口を出し、ブラウンロウ氏も「いい考えだ、エドワード」と賛成するのでローズは窮地に立つが、「ご一緒 頂けるのは光栄ですが、婦人服も、同時に見たいのです。ご好意は感謝しますが、私としては、女同士で行きたいのです」と上手に断る。
  
  
  

ナンシーは、オリバー用に夕食を買ってくる(1枚目の写真、矢印)。それを見てオリバーの顔がほころぶ(2枚目の写真)。オリバーは、「僕、どこかに行くの?」と訊く。「そうよ」。彼女は話題を食べ物に逸らす。布を拡げながら、「さぁ、何が入ってるかな?」と言い、「羊って言ったけど、きっと猫ね」と冗談を言って半分割って渡す。オリバー:「でも、いい匂いだね」(3枚目の写真)。
  
  
  

ナンシーは、「なぜ、ドジャーと喧嘩を?」と尋ねる(1枚目の写真)。「スリ騒動は、彼の責任じゃない」。「違うんだ」。「じゃあ、何?」。「しゃべった」。「何を?」。「例の手紙だよ。僕を、誘い出した手紙」。「あたいは、読み書きできんから、知らんの」〔代書屋に書いてもらった〕(2枚目の写真)。「母さんのことだよ。この話をしたのはドジャーだけ。友達だと思ったから。でも、話しちゃった。フェイギンやサイクスに。僕の秘密を。友だちを密告する?」〔オリバーがドジャーを怒った理由が分かる〕。「しないわ。母さん、知らんの?」。「僕が生まれた時、死んだ」。オリバーは母のことを全く知らない。そこで、「僕、知りたい」と言う。ナンシーは、「あたい こう思うの… あんたの母さんは絶対いい人。それに美人。そして優しい。あんたは知らなくても、見ててくれる。空の お星さまだから。きっと、そう」と、優しい言葉をかける(3枚目の写真)。
  
  
  

遠くで時を告げる鐘が鳴り、ナンシーはビルを起こそうとする。オリバーは、「僕、やりたくない。どこにも行きたくない」と訴えるが、ナンシーは「彼が、世話してくれる。あんたが役に立てば立つほど 大事にしてくれる。悪い人じゃないの」と説得する。そして、場面は一気に真夜中の郊外の館を目指して歩いて行く2人に変わる(1枚目の写真)〔原作では、チャーツィー(Chertsey)にある金持ちの館ということになっているが、そこはフェイギンやビルのいる場所の西南西32キロの地点。朝5時半過ぎに家を出て、2回荷馬車に乗り、2回仮眠をとり、夜の2時に着く。だから、映画では、もっとずっと近くの館になる〕。オリバーは少しだけ下を開けた窓の隙間から 中に入り込む。そして、「玄関に向かえ。ぐずぐずするんじゃねぇ」と指示される(2枚目の写真、矢印はビルの頭)。オリバーが大階段の前を横切って玄関まで行き、ドアを開けようとした時、階段を誰かがそっと降りてくる。ドアが開いてビルが半身を入れると、銃身が上がる。階段を銃を構えて降りてきたのは執事だった。それに気付いたビルは、オリバーに「来い」と命じる。オリバーが、「何?」と振り返り、ビルがその手を取って、引きずり出そうとした時、銃が2度発射され(3枚目の写真)、その度にオリバーが悲鳴をあげる。ここで、ミニ・シーリズの第2回目(1回目の半分の時間)が終わる。なお、この最後の節の前と途中には、救貧院での一連のシーンの前半があり、それについては、次々節で取り上げる。
  
  
  

クリックオリバー・ツイスト (2007年版) ➁


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